2024/10/16 (WED)

【実施報告】第10回立教サイエンスカフェ「フォトンクエスト 〜光物理化学と光エネルギーがうつす世界〜」を開催しました【SC教育・SCOLA SIP】

OBJECTIVE.

2024年10月2日(水)、立教大学理学部化学科教授、三井正明さんをゲストにお招きし、第10回立教サイエンスカフェ「フォトンクエスト~光物理化学と光エネルギーがうつす世界~」をP-144にて開催しました。

今回のサイエンスカフェは、 立教大学 理学部 共通教育推進室(SCOLA)が行うサイエンスコミュニケーション実践教育プログラムSCOLA SIPの3期生、チーム光の探求者(洲、須﨑、戸室、不藤、宮内)が主体となって企画・運営を行いました。

コンセプトは光の探求者が作成した架空のゲーム『フォトンクエスト』のリリース直前イベント。三井さんにはこのゲームの科学監修をつとめていただいた、という設定です。本イベントでは三井さんの研究テーマである低エネルギー光を高エネルギー光に変換する「フォトンアップコンバージョン」や、その過程で使用される「増感剤としての金属クラスター」に焦点をあて、お話を伺いました。

『フォトンクエスト』リリース直前イベント開演!

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ゲーム『フォトンクエスト』のPVとして作成した映像

本イベントは光の探求者が作成した架空のゲーム『フォトンクエスト』の紹介から始まりました。ゲームのテーマとなっているのは「光物理化学」。ゲストの三井さんとともに、その世界を巡る冒険のスタートです!

自身のゲーム体験についても語る三井さん(右)

特技〈れいきじょうたい〉と武器のレアリティ

『フォトンクエスト』上での〈れいきじょうたい〉の画面

「ゲーム内では武器がレアリティによって色分けされていたり、本作品で登場するスライムの特技に〈れいきじょうたい〉があったりします。」

普通のゲームでは見られないようなこれらの設定。武器のレアリティの色分けは、光の色と波長、エネルギーの関係からインスピレーションを受けたものです。光の波長は、短いとエネルギーが高く紫色、長いとエネルギーが低く赤色になります。ゲームの設定として、レアリティが高いものには紫色を、低いものには赤色を用いて、細かいところにも光物理化学要素を盛り込んで表現しました。

また、ゲームに登場した〈れいきじょうたい〉は、物理化学分野でよく登場する「励起状態」のことです。「励起状態」とは、他のエネルギーを吸収して通常より高いエネルギーを持っている状態のこと。このとき通常では起こりにくい化学反応が生じやすくなることがあります。

三井さんのお話からもエネルギーを感じます

光るスライム:意外と身近な励起

思った以上の「蛍光」に前のめり

「『フォトンクエスト』には光るスライムが登場します。」

会場にも実際にスライムを用意し、「スライムを光らせてみる」という体験会を行いました。この体験を通じて、実は私たちの身近にある「蛍光」という現象と、先ほどゲームの設定で出てきた「励起状態」が深い関わりをもっているということを紹介しました。
「蛍光」というのはどういった仕組みで、「励起状態」とどのような関係があるのか。三井さんのお話を聞くだけでなく、スライムが光る様子を実際に見てもらうことで「励起」を身近に感じて頂くことができたと思います。
勇者の必殺技〈フォトンアップコンバージョン〉

発動には〈トリプレット〉という仲間と〈メタルクラスター〉というアイテムが必要で……

「勇者は旅の途中で〈フォトンアップコンバージョン〉という必殺技を獲得します。」

作中の必殺技、「フォトンアップコンバージョン」は実際に三井さんが現在行っている研究テーマです。
「フォトンアップコンバージョン」とは「低エネルギー光から高エネルギー光への変換」のこと。この変換によって、光エネルギーを増大させることができます。三井さんは近年、フォトンアップコンバージョンに利用される増感剤「金属クラスター」について、研究を進めています。三井さんの研究分野ということもあり、ここのパートは本イベントでも特に熱く語っていただきました。

ドラゴン討伐へ:フォトンアップコンバージョンの応用

「『フォトンクエスト』のボスは、光を喰らい、熱線を吐くドラゴン〈ダウン・コンバー〉。勇者たちは「フォトンアップコンバージョン」を使って、熱線を光に変えて戦います。」

この設定は、いずれ実現するかもしれないフォトンアップコンバージョンの応用例としてゲームに登場させたものです。

フォトンアップコンバージョンは将来的にどのような場所で応用できるのか、具体的な活用方法について紹介しました。太陽光発電の効率化から医療まで幅広い分野に応用できることを語ると、参加していた方も驚いたようで、終了後のアンケートにこの箇所が印象に残ったと書いてくださった方もいました。
明かされる〈ダウン・コンバー〉の正体:好奇心と基礎研究

意外なボスの姿に、思わず笑みも

「ボスであるドラゴンを倒すと、ドラゴンは次第に溶けていき、そこに現れたのは闇に包まれた一人の人間でした。実は〈ダウン・コンバー〉の正体は光の国の元研究者。自身の研究が「役に立たない」と言われたことをきっかけに、心に闇が芽生え、光の国を破壊するドラゴンへと姿を変えていったのでした……」

三井さんが行っている研究分野は、「基礎研究」と呼ばれるものであり、先ほど紹介していた「応用研究」と異なります。なぜそうなるのかを明らかにする「基礎研究」と、実社会への活用を目指す「応用研究」。「基礎研究」は学術的に評価されますが、「応用研究」と比べて、人々にとって役立つという実感がすぐには得られにくい側面もあります。
実際に三井さんには研究に対する思いや、自身の経験に基づいて「なぜ研究を続けようと思ったのか」についてお聞きしました。
三井さんの研究の根幹にあるのは、「新しいことについて知りたい」、「この謎を解き明かしたい」という探究心でした。「役立つため」というよりも「知りたい」という好奇心が三井さんの研究の活力に繋がっているそうです。
好奇心を突き進め!:対話ワーク

実際に配布した対話ワークシート

「リリース直前イベントで来ていただいた皆さんに、『フォトンクエスト』の裏ボスの存在を先行公開(という設定)!しかし映像などはまだ公開できないため、終盤シーンの再現をワークとして体験していただきます。裏ボスを攻略するヒントは彼の心に光を取り戻すこと。そのために勇者は自分の心の光について語り始めます。二人が対話することで、〈ダウン・コンバー〉は次第に心に光を取り戻していくのでした。」

さて、ここで「心の光」とは何を指すのでしょうか。三井さんの場合、長年続けてきた研究の根幹には「知りたい」という好奇心がありました。この三井さんの「好奇心」を手掛かりに、皆さんには、それぞれの「心の光」を挙げてもらいました。
しかし、ここで挙げた好奇心を突き進むには、いくつもの障壁があることでしょう。例えば〈ダウン・コンバー〉のように周りの評価によって自分の好奇心を失ってしまうことも……。
〈ダウン・コンバー〉が勇者との対話によって「心の光」を取り戻すように、参加者の皆さんに対話を通じて、終盤シーンの疑似体験をしていただくコンテンツをご用意しました。
旅の終わりに:まとめ

「サイエンスカフェ全体の満足度について」に対する回答

アンケートでは多くの方に「満足」であったという声をいただき、ゲームという親しみやすいテーマを用いて、専門性の高い光物理化学を皆さんにお届けすることができたかもしれないと感じました。
カフェに参加された皆さんには、体験で用いたスライムを記念にお持ち帰りいただきました。後日、「なぜこのスライムが光るのかを調べ直した」というお話を伺うこともでき、カフェを実施した時間のみならず、参加された皆さんの日常に残るイベントを実施できたのではないかと思います。

私たち光の探求者は、三井さんの研究姿勢を通じて「基礎研究の根幹にあるのは、誰の心の中にも存在する探究心である」ということをメッセージとして伝えたいという思いから、このサイエンスカフェを企画しました。参加された皆さんにとって基礎研究について理解を深める機会となっていましたら幸いです。

最後に、参加して下さった皆さん、ここまでお読みいただいた皆さん、ゲストの三井さん並びに会場をお貸しくださったP-144の皆様、本当にありがとうございました。

『フォトンクエスト』に登場するアイテムたちと

文: 須﨑渓介(理学部物理学科2年)、宮内桜(理学部化学科3年)

【企画・運営】
チーム:光の探求者
洲健太郎、須﨑渓介、戸室琴乃、不藤里菜、宮内桜
(2024年度 SCOLA SIP3期生)

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